奇会的魔女観測

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 奇妙で奇怪な、機械の都市。そこに棲むとはひとつの歯車が壊れてどこかへ行ってしまうことだろう。
 そもそもこの集団、何をするのか。
 誰がまとめ役なのか。
 名目上、ワタシがリーダーらしいが。
 未来記が正しいことはワタシが1番よく知っている。あの日は大雪だった。小学生らしくランドセルを背負い、傘も差さずに肩に雪を積もらせる。コートの雪を払い落とす。寒いせいか膝が震えている。
 ワタシは知っている。今日これから会う人間には深く関わるであろうことを。何がどうなっているかは頭で分からずともなんとなく分かってはいる。
「ねぇ、あなた、こんな寒い中突っ立ってないで」
 見目寒々しいのはナシキの方だった。スカートはやはり寒いだろうと思う。赤いランドセルを背負ったナシキは、あ、と言った。白い息が吐き出される。
「あなた、―――――くんでしょう?」
「アナタは更科梨希さんですね」
 なぜかは知らないが、ワタシは有名人らしい。学校内でワタシを知らない人はいないと先生たちは言う。
「ええそうね、わたしは魔女なの」
「……」
「イラは未来記だね」
 誰だイラって。そう思ったが、しばらくしてワタシのことだと気づく。
「……」
 分からない。
 最初、ワタシはナシキに対して、空飛ぶ魔女に対して抱いた感情は戸惑いのみ。

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 14時3分。あと少しで4分になる。
 わたしは自分の部屋に半ば引きこもり状態で、昼食後を過ごしている。ベッドの上で膝を抱えて小さくなっている。
 こうやっていれば怖いものから身を守れるとでも言うように。
「あーあ、やってられないよ」
 こうやってじっとしているのも、もう飽きた。何か外に出て行動したくなる。ただあまり余計なことをするのも気が引ける。
「はいー?」
 スマホが鳴動している。メールが来たらしい。
 それを読んだわたしの顔が喜色に満ちてくる。
「そうかー、そうねぇ、やってみなきゃ分からない、か」
 瞳子の言葉もあながちまちがってはいないのかもしれない。わたしは大学ノート1冊とボールペン、他いつものものを持って外に出る。母に気づかれぬよう、奇会都市へ。
 そして金曜の約束を思い出す。
 有也との初デートだ。三日月のように笑ってなどいない。昔からよく知る喜び。狂いそうな悦びよりも幾分か優しい。
「約束は守らないとね」
 人に見せるのは鏡の中、三日月は黒く黒く塗り潰してそっと中へしまっておくの。
 走る。走って、向かう先は休みの学校。制服を着ていないが生徒手帳に定期券に、学校用の鞄は持ってきた。バスに乗って白陽高校へ向かう。
 時間がまとわりついてなかなか離れてくれない。
 途中で靖人に会った。三日月の笑みを浮かべた弟子、靖人はしっかり制服を着ていた。
「もう夜が怖いなんて言ってられないんじゃないか」
「そうね。もう……平気だよ」
 至極どうでもよかった日常までもがとても遠い。手を伸ばしても空を掻くだけだ。それを後悔はしていない。
「これからどうなるんだろうね」
「どうにかなるだろ。取り敢えずいつか師匠に真剣勝負を申し込みたいね」
「どういう勝負……?」
 扱い方によるのだろうか。靖人は攻撃を加えることができる力を持ち合わせていたのか。いや、応用次第では。わたしは考えても回答にたどり着けなかった。
「物質に働きかけるのさ」
「じゃあ火は発生できないんじゃ?」
「どうにかなるさ」
 気づかないほどの微量を何かに少しずつ浸透させるから、これは最終警告だ。
 バスが学校の前に着いた。
 そこは閑散とした、土日らしかぬ学校だ。
 白陽連続殺人事件の影響で休日も部活は休みらしい。そこに似合わぬ、さんさんとした春の日差しは夏に向かって強さを増している。
「警察と無縁の人生を送りたいね」
 靖人がしみじみと言う。
「何を今更」
「いや、ここに今いてくれたら困るだろ」
「イラさんが大丈夫って言ったのよ」
 昇降口から校舎に入る。まだ誰も来ていないらしかった。先にたとえば梨希であるとか、イラや清にぃがいるだろうとわたしは思っていた。ここでないだけで教室にでもいるのかもしれないが。
「どうする?」
「どうしようね」
 靖人に訊かれてもわたしはそうとしか答えようがない。靖人は振り返る。そこには誰もいなかったが、じわりじわりと地面に影がしみ出していた。わたしがあぁ、と間抜けな声をあげる。
「清にぃ、おはようございます」
「おはようじゃないよメーコちゃん。今は昼なんだよ。訊くまでもないけど椎くん、キミが新メンバーなんだね」
「そうだよ清にぃさん」
 しれっと靖人が答える。
「弟が教えてくれたんだよ。普段名前で呼ばないからね、絶対計算したんだろうね、あいつは」
 イラは当たり障りのない情報を教えたらしい。
「イラさんは清にぃさんと少し似てるな。で、こんな危ないところに何しに来たんだ」
「椎くんこそ無理はいけないよ」
 ふたりとも笑ってはいるが威圧感を無駄に放っている。わたしは清にぃに気づかれぬように首を動かさず辺りを見回す。梨希は、イラは、近くにいないだろうか。大学ノートとペンをしっかり持ち直す。
「あれぇ、でも、先輩、今日は更科先輩とデートなんじゃ」
「場所はここを指定してきたんだよ、椎くん」
 今更ながらわたしは気づく。
 清にぃが梨希を強く疑えなかったのにはそういうわけがあったらしい。
「じゃあどうにかなるかな」
 あくまで靖人はいい加減だ。