奇会的魔女観測

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「どこ行ってたんだよ」
 清にぃは開口一番そう言った。ワタシは昼ごはんを手に提げて帰ってきたのだ。
「コンビニ」
「商品を見て迷うことをしないおまえがこんなに時間かかるかよ」
 鋭い指摘だった。ワタシはリビングで昼飯とする。清にぃにも弁当を渡すと、今はいいや、と言われた。確かにパソコンと向き合って格闘中の清にぃはそれどころではないかもしれない。
「紫条ビルの屋上で黄昏れてた」
「みんなで集まってたのまちがいじゃないのか」
「何人かいたね」
 のれんに腕押しといった様子のワタシに、清にぃは嘆息した。その間もキーボードを打っているのだからなかなか器用だと思う。
「まさか適当に『言われたから肯定してる』んじゃねーだろーな」
「正しいことだから肯定してるんだよ」
 ワタシは嘘をついていない。
「何やってんの?」
「プログラム作ってるんだよ」
 だんだん清にぃの言葉が荒くなってきている。
「どこまで分かってる? 清にぃは」
「全然。ただ人数は6人だろ」
「よく知ってるね」
 新参者で6人目だ。ついさっき入ったばかりだが、それのせいで分かったのかもしれない。とすると、掲示板に書き込み等々はなかったのか。
「そうだ清にぃ、ワタシは相変わらずいないことにされてるのかな」
「警察がおまえに事情聴取してないってことはそういうことだろうな」
「鬼籍扱いだよねほとんど」
「まあそうだな」
 ワタシと清にぃは実の兄弟だが、諸事情あって情報隠蔽がなされている。この場合清にぃのためだろう。
 これも両親のせいである。研究所でも良いかもしれない。ワタシは10歳まで施設の中で育ち、清にぃは12歳までワタシの存在を知らなかったのである。
「来週は平和になるかな」
「さぁな。おまえがもしコトを収めようとしたら平和になるんじゃないか」
 なるほど、そうくるか。ワタシは冷蔵庫からミネラルウォーターを出して一気飲みした。ついでだからとスマホに手を出してみる。新着メッセージ5件だそうだ。何ヵ月放っておいたかは忘れた。
「おまえら集団でひとつの犯罪をしたことがあるか?」
「今のところはないかな。弟子が来たのはついさっきだから」
「弟子?」
「うん。師匠と弟子がいる。もしかすると清にぃのこと知ってるかもね、弟子の方は」
 メーコの知り合いで清にぃと同じ学校の生徒だから清にぃを知っているかもしれない。メーコに確認してみよう。
「あぁ、もしかしてメーコさんとワタシとナシキ以外は誰も分かってない?」
 清にぃが渋い顔で頷く。驚いた。他3人についてはブラックボックスか。パソコン大好きがひとりいたから何か行動を起こしたのかと思ったのだが。
「多少情報をくれないか」
「たとえば?」
 ナシキは確実に清にぃに情報を与えないだろう。
「新メンバーが誰か、とかさ」
 直球だった。
「なんていったかな、苗字は忘れたけどなんとかヤストって」
 フルネームを教えるのはさすがに気が引ける。
 メーコが苗字で呼んでいたから、まわりの人間もそう呼んでいるのかも知れない。清にぃは思い当たる節が少々あったようで、やはり知り合いらしい。
「なぁ、椎靖人のことか、それ」
 ワタシは頷いた。
「瞳子ちゃんが言ってたな……うん」
 直接の知り合いではないようだ。
「連中の一員ってことは何かできるんだよな。知ってるなら言ってくれよ」
「集団心理がなんとかって言ってたよ」
 ワタシもよく分からない。
 むしろ清にぃの知らないふたりの能力だってよく分からないものだ。人間をまさしく機械、そう扱う人もいれば個人相手の思考を塗り替えてしまう人もいる。
「…………」
 清にぃは画面に靖人のデータを集めていた。写真は中学校の卒業写真か高校の生徒手帳の写真か。住所、家族構成など詳細なデータが載っている。
 さすがハッカー。
「ここの近所じゃないか」
「ここから徒歩40分は近所?」
 メーコの家からなら近い方だろうが。ワタシと清にぃの家の近所に奇会都市のメンバーが集中しているのに意味はあるのかないのか。
「今メーコちゃんが外出してないと良いんだけどね」
「雪村さんにしょっぴかれてるかもしれないよ」
「事情聴取のまちがいだろ。彼女は犯罪に関わってな、……?」
 考え込んでしまった清にぃだが、ぽつりと言う。
「更科が喋ってくれればな」
「無理だろうね」
「知ってるよ」
 こうやっていること自体不毛だ。

  + + +

 わたしは唐突に思い当たる。清にぃはハッカーだ。情報を晒すのが得意なら情報を隠すのも得意なのではないか。
「なんだ難しいことじゃないや」
 昼食を作って、母と食べる。あと1時間もすれば妹が帰ってくるだろう。ワイドショーはどこも白陽連続殺人事件の新たな被害者についてやっていた。被害者5名の顔写真が映し出され、いずれも関わりはないと言っている。
 あるとすれば近隣で、同じ高校に所属していたことくらいか。
「これじゃあ無差別殺人も良いところよね」
「うん……」
 第一発見者はいずれも伏せられていた。きっと教育委員会や県議会がストップをかけたのだろうと思う。
「あの子も大丈夫かしらねぇ」
「うん……」
 わたしの心はここにあらずだった。
「犯人が早く捕まれば良いけどね」
「うん……」
 良く、分からない。
 こうやって見ればわたしの家はいつも通り過ぎて、逆に不気味なくらいだった。