奇会的小唄観測

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「な」
 有也がそっと、皆の側に寄る。倒れていた人々が次々に起き上がり、ナイフなどを片手に、奇会都市のメンバーに向かってきた。
「椎くん、余興?」
「そんなとこ」
「椎さんらしいですね」
 有也だけが逃げ惑い細かく移動している。
「大丈夫だよ、澤村。わたしがなんとかする」
 現在記すれば簡単だ。
「椎くん、邪魔するよ」
 書くことはひとつ。
 終わって。
 すーっと、波が引いて行くように、白陽高の制服の群れが消えていく。靖人がああ、と残念そうに言った。
「小鳥遊、それねェよ」
「澤村がいなきゃ良かったんだけどね」
「おいおい、俺の目的は澤村にダメージ与えることだよ。つまらないじゃないか」
「そっかー」
 有也はふっとどこか遠い目になり、
「だから、奇会都市なんだな」
「ん?」
「俺とはいろいろ、違うんだな」
「他人と全く同じ人だなんて人いないよ」
「詭弁だよ、メーコ」
 でも有也が無事ならそれで良い。
「じゃあ小鳥遊、一騎打ちしようぜ」
「そういうことなら」
 現在記を使わないのが前提だろう。
「メーコ、やめてくれ」
「澤村、そしたらあなたが標的になるよ」
「……」
 わたしと靖人の殺し合いが、始まった。
 ナイフが軽く皮膚を裂く。ぎりぎりのところでかわす。その繰り返し。
「彼女が弱ってきちゃ、彼氏は傷つくだろ」
「……そうかもね」
 有也を見る余裕はない。
 わたしの息は上がっていた。文化部のわたしにはキツい。靖人は帰宅部だが、学校帰りにバスケしたりしているそうだから、体力はあるのだろう。
「小鳥遊、運動不足だぞ」
「知、ってる」
 靖人は汗すらかかずわたしとの殺し合いをつづけている。そろそろ右腕の浅い傷が10箇所を越えたのではないか。
「ねえ、椎くん」
「なんだ小鳥遊」
「わたしのこと、好きなの?」
 ずっと前から気づいていたことだった。わたしの勘は良く当たる。他人の気持ちには敏感な方かもしれない。有也がわたしに好意を持っていて、この恋が叶うことはなんとなく分かっていた。
 つまらないことだが、わたしの勘の良さは現在記と関係あるのかもしれない。
「なんだよ、今更」
 靖人がわたしの袖を切った。
「今更、だよ。おまえが俺のこと男として見てないことは気づいてたよ」
 まっすぐ、心臓めがけて。
 靖人はナイフを振り下ろす。
「好き、だったよ」
 わたしは避けなかった。
 怪我なんてどうだって良い。きっと靖人はもっと胸が痛い。
「好き、だったさ。でも俺はお兄さん的存在にしかなれないって分かった。中学の頃から俺の一方的な片思いさ。高校入ってどうなるかと思ったけど、澤村はああだし、他人の恋路を邪魔する奴はなんとやらって言うし、見てるしかなかったさ」
 靖人はわたしを深々と刺していた。
 遅れて血が服を染めていく。
「殺したいくらい、好きだった」
「良い表現ね」
「メーコ、メーコ?」
 有也が近寄ろうとするのを、梨希が止めた。
「少年、やめときなさい。恋敵は殺したいくらいには憎いはずだわ」
「梨希さん、」
 わたしは膝をつく。靖人がナイフを抜く。
「フィナーレだね」
 イラがどうでも良いように言った。本人も至極どうでも良いのだろう。自分が主役であってもなくてもどうでも良いのだ。
「さて、救急車を呼ぼう。ワタシたちは撤退だ」
 清にぃがテレポートして、イラ、有也、アンネは歩き始め、梨希は飛び去った。靖人がじゃあな、と言って背を向ける。
 酷く、眠かった。