奇会的小唄観測

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 寝て起きたら朝だった。
 そういえば学校に行けていない。今日は月曜日だ。テスト前なのに欠席なんて先が思いやられる。
「小鳥遊さん、お加減いかがですか」
 医者と看護師が回診で来て、わたしの怪我は整形しないと跡が残ることを説明した。しょうがない。理由を言えば制服は、合着のまま夏を過ごすこともできるだろう。何も知らない友達になんて言われるか分からない。
 ただ。どうでも良いことであることは、確かだ。
「清にぃ、今日来るかな」
 メールではなく会って訊いてみたい。
「なんでわたしは生き残ったんだろう」
 この世に未練はない。
 瞳子の方が未練があっただろうに。
「おはよう」
 見れば、制服姿の清にぃが病室に入ってきた。
「おはようございます。……学校は?」
「仮病」
「良いんですか」
「奇会都市の方が重要だ」
「わたしから話せることはありませんよ」
 清にぃは黙る。
「むしろなんで瞳子が死んでわたしが生きてるのか。違いが分かりません。瞳子の能力についても」
「なんて言えば良いんだろうね」
 わたしはその答えを持たない。清にぃは顎に手をやって、
「何か基準があるはずなんだ。誰かの意志によるものだろう。神さまでないことは確かだ」
「わたしは基準自体ない気がしますが」
「メーコちゃんだけ助かるっていうのは理由が分からないじゃないか」
「基準があるって考えるから行き詰まる気がします」
 良く分からない。本当に分からない。瞳子が残した遺言も。瞳子は自身の能力で身を滅ぼした。分かっていた、のだろうか。
 瞳子は。
 何を。
「瞳子の幽霊にでも訊ければ良いのに」
「そう非現実的なことを言ってもしょうがないよ」
 奇会都市自体非現実的な存在のような気がしたが、突っ込まないでおいた。
「犯人と瞳子はたぶん面識があるはずです」
「そうなのかい?」
「そのせいで能力が目覚めたのかも」
「それはあり得るセンかもしれない」
 清にぃは頷き、わたしは自分の思いつきが現実の気がして嫌になった。瞳子の覚醒。なぜわたしに教えてくれなかったのか。友達だと思っていたのはわたしだけか。
「そう、瞳子はいつも隠しごとして。ストレートに言うのに掻き消して、肝心なところはわたしも澤村も知らない」
「僕もイラも、知らない」
 くつくつと清にぃは笑った。三日月の笑みを浮かべている。
「面白くなってきたね。分からないことだらけだ」
 わたしが退院してすぐに梅雨が明けた。定期考査を受けて、夏休みが見えてきそうな日々がやって来た。暑いがわたしは長袖である。包帯を巻いて半袖というのも考えたのだが、包帯がアクセサリーのように思えてやめた。
「メーコは余裕で90点越えだもんなぁ」
 有也ががっくり肩を落とす。
 帰り道は途中まで一緒。駅まで。放課後デートだ。
「文系科目はね」
 数学はさっぱりだ。わたしは暗記しか才がないのだと良く分かる。三角関数なんて嫌いだ。
「澤村は大丈夫なの?」
「俺? あ、ま、瞳子のためにもきちんと生きないとな」
 後ろから瞳子が肩を叩いてきそうな気さえするのに。
「メランコリック・ララバイは清にぃも分からないって言ってたな。メーコも覚えてないんだろ? 暗記には自信のあるメーコが」
「そうなのよ」
 なんか悔しい。
「メランコリーな内容だったってイメージしかない。今度犯人に訊いてみようかな」
「なあ、俺は妹殺されてんだ。そろそろ教えてくれたって良いんじゃないか」
「それとこれとは別」
 わたしはきっぱり言い切った。
「瞳子が死んで悲しいよ? でもそれと事件とはわたしの中で断絶してるの。だって瞳子も殺人を楽しむような子だったかもしれないよ」
「言ってたな、前に。瞳子は犯人と同じ能力を持っていたかもしれない、って」
「そう。だから教えられない」
「俺が――」
 有也は何を言いたいのだろう。
「俺が連中の仲間入りを果たしても、か」
 わたしは三日月の笑みを浮かべる。
「それは無理だよ」
 有也の顔が青ざめる。おそらく、恐怖で。このくらいなんてことはない、人間の生命は花と同じ。やがて散りゆくならば、握り潰したって変わらない。それは狂人の言うことだろうか。いや、そんなことはない。
 狂っているのは奇会都市ではなく、世界の方だ。
「澤村はそういうことをやれない。やったとしても自己嫌悪で潰れてしまうよ。わたしにだってそのくらいは分かる。無茶言わないで」
 気圧された有也が頷く。わたしは有也のことが好きだ。きっとこの恋は本物。でもわたしは違法行為をやめるつもりはないし、瞳子を殺した靖人を恨むつもりもない。
 人は殺すものだ。
「危ないことはして欲しくないし、俺はメーコを守りたい」
「ありがとう」
 わたしは心からの笑みを作った。有也がほっとした顔をする。きっとわたしが普通の顔をしたからだ。すぐ分かる。