奇会的小唄観測

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 ワタシは本を読むことは諦め、繁華街に出ることにした。情報を収集する気になった、というのが正しい。まず犯人を探して話を聞かないことには始まらない。
「清にぃも妙なところで正義漢ぶるから」
 澤村瞳子。ワタシの知らない人物だが、知ってる人物だから何かあるわけでもない。どうでも良い話だ。他人の生死なんて。知人の生死なんて。
「清にぃが探してたよ」
 突然背後から声をかけられた。見ればメーコだった。どうしたのか有也の姿がない。
「メーコさん、澤村は?」
「知ってて言ってるよね。今病院だよ」
「ああ」
 妹が亡くなったのだ、当然の話か。
「清にぃが探してたよ。あいつは僕に何かヒントくらい出しても良いはずだ、って」
「ヒントの持ち合わせがないんだけど」
「教えても大丈夫じゃない? 椎くんは怒らないかもしれないよ」
「かもしれない、では、」
 作業着の少年が立っていた。身長は大して高くないが年はワタシと同じくらいだろう。ワタシも何度か遭っている。
「よーうイラ。俺が犯人だぞ」
「やっぱりそうか」
 椎靖人(しいやすと)、という。メーコと有也の同級生。ワタシはそれ以上知らない。ここ1ヵ月程度で知り合ったのだから。
「清にぃは?」
「呼べば来るかも」
「呼ぶなよ。今競争相手がいなくなったかもしれないってところなんだ。師匠はくちばしを突っ込まないみたいだけど」
「今回師匠……玄谷(くろや)先生は関係ないの?」
「ああ。小鳥遊は師匠に会ったことあったっけ」
「1回だけ」
 玄谷黒鎖という、御堂の国語教師である。中学生より高校生を教えていることが多いが、授業にろくに参加していないワタシは本人から聞いてようやく知ったくらいだ。
「メーコさんのその記憶力の良さはどこから?」
「さあ。わたしはそういう脳を持って生まれてきた、それだけじゃない? イラさんに『どうして未来記ができるの?』って訊いてるようなものだよ」
 それはそうかもしれない。
「椎、今回何したんだい」
 ワタシの問いに靖人は頭を掻いて、
「ネタ割れてもつまらないだろ」
 面倒そうに言った。
「椎くんのことだから詩は別な人に作ってもらったんでしょ」
「小鳥遊、俺に文学的センスがないとでも?」
 メーコは迷うことなく頷いた。
「ひっでェなぁ。俺詩人目指してたこともあるのに」
 靖人は言葉とは裏腹に楽しそうに言う。
「でも中身は教えないぜ? 楽しいことになる。そう、楽しいことに」
「椎くん、清にぃが転移してくるよ。逃げた方が良い」
 聞くなり靖人はぱっと駆け出して路地裏に消えた。メーコの言う通り地面には人型の影がしみ出していた。足から植物が生えるかのように現れたのは、ワタシと同じくらいの背丈で外見もよく似ている、少年。
 紫条清和。ワタシの実兄である。
「――で、犯人はいないんだね」
 清にぃは落ち着いた声音で言う。
「逃げていきました」
「メーコちゃんが現在記で逃した、のまちがいじゃないかな」
「わたしは何もしてませんよ。ただ清にぃがテレポートしてくることを教えただけです」
 現在を即時に書き換えるメーコの現在記は、ワタシの未来記より数倍使いでがある。メーコはくりくりした目をぐるりと回し、
「わたしは何もしてませんよ。今回はなぁんにも、ね?」
 三日月のような気味の悪い笑顔を浮かべた。
「それから、瞳子が殺された? 自殺した? と聞きました。清にぃならどちらなのかご存知ですね?」
「殺されたに決まってる」
 清にぃは断言した。瞳子は自殺願望がなかった、そういう問題だろうか。奇会都市は全体的に関与しているが全てが全てではない。
「イラ、おまえに心はなかったな」
「今更言うことじゃないよ、清にぃ」
 ワタシの幼少時を考えれば心など生まれるはずがない。
 幼い頃、研究所での日々は、今思えば酷いことをされていたと思う。人間としてワタシは扱われていなかった。思い出したくないから消してしまった記憶、記録となってワタシの日記帳に綴られている。
「それで、その澤村の妹さんが死んだ状況は?」
 清にぃはワタシの質問にメーコを見た。
「清にぃ、わたしは超能力を持ってるわけじゃないですよ」
「勘と記憶力の良いキミなら分かるかと思って」
「無茶言わないでください」
 メーコは清にぃの顔をじっと見て、
「飛び降り自殺ですか」
 半ば納得しているかのような疑問を言った。
「分かってるじゃないか。メーコちゃんなら知り得た情報だね」
「はい。瞳子高いところとかジェットコースターとか好きなんです」
 ワタシは淀みないメーコの返答に「ほぉ」と言った。
「だから疑えるんだけどね」
 清にぃはひたとワタシを見つめた。
「状況を考えるとこうしてもおかしくない。そんなつじつまが合うなら人間自殺なんかしないんだよ。うまく符合させたんじゃないかっていう完璧さに疑いを感じる」
「いくらワタシや、……もしくはワタシたち奇会都市を疑ったところで、ワタシに答えられることはないんだけどな」
 ワタシの言葉に清にぃはため息をついた。
「ネット上で突きとめられるか」
「んー、噂として広まってるか分かりませんよ、清にぃ」
「なんとかするのが僕の信条でね」
 清にぃは笑った。
「いつか清にぃには手が出せなくなりますよ」
 楽しそうにメーコが言う。
「本気のゲームほど楽しいものはないよ」
 なんだ。
 清にぃにとっても瞳子が殺されたことは遊戯の一環か。