奇会的小唄観測

+1+

 ことの起こりは白陽高校に通う生徒が自殺したことだった。以前の、この前の白陽連続殺人事件以前ならば、確実にわたしは寝込んだだろう。更科梨希(さらしななしき)という清にぃこと紫条清和(きよかず)の彼女が「イラの未来記を確かめるため」起こした事件だった。
 梨希にとってはタイミングなんてどうだって良かったのだろう。ちなみに清にぃの実弟がイラだ。
 自殺は近隣の中高合わせて今のところ3人。
「なるほどね、その自殺した子の周辺で『メランコリック・ララバイ』なるものが伝わっている、と」
 わたしと有也の説明にイラは頷いた。
「で、ワタシにどうして欲しいんだい、澤村」
「おまえが犯人なんじゃないのか」
「薄々誰なのかは分かるけどワタシでないことは確かだね」
「澤村ぁ、だから奇会都市(きかいとし)の誰かのせいだって。わたしも含まれるよ」
 有也は大まじめな顔で、
「メーコではない」
 きっぱりと断言した。根拠のないその自信はどこから来るのだろう。この前の事件でわたしは既に手を汚しているようなものなのに。
「ちなみにメーコは分かってるのか?」
「本人に確認したよ」
「先に言えよ……」
 有也は頭を抱えた。
「だって澤村、訊かなかったじゃない」
「だけどさ!」
 わたしだって有也に教えられる立場にないのだ。特に今回は有也と犯人に面識がある。そんな面倒な場合なら。
「ワタシのところにコーヒーを飲みに来ただけだったんだね」
「うん」
「うんじゃない」
「澤村はまじめだなあ」
 有也はため息をついて、頭を左右に振った。
「分からない。イラを見て更に分からなくなった」
 わたしはそろそろ冷めたかとコーヒーに口をつけた。まだ熱かったが、イラの淹れるコーヒーは格別だ。
「ワタシを見て分からなくなった?」
「おまえが変人なのは分かるんだ」
「初対面の人間に面と向かって変人呼ばわりされるのは初めてだよ」
「俺も初対面の人間を変人呼ばわりするのは初めてだ。って、そこは問題じゃないんだよ。犯罪者が目の前で息してて、それが彼女の知人っていうところが問題なんだよ」
 イラは整った顔に表情らしい表情を浮かべることなく、
「別に不思議でもなんでもないよ」
 自分はコーヒーを飲んでそう答えた。
「犯罪は犯罪と言えど原罪と同じ」
 イラは三日月のような気味の悪い笑顔を作って言う。
「つまり人間最初から誰もが背負っているのと同じ」
 有也は顔をまっ赤にする。
「それは詭弁だ」
「そう怒ることじゃないよ」
「澤村、取り敢えずコーヒー飲もう?」
「メーコ、こいつ今、」
「はいはい、いつもだから」
 有也はわたしを睨んでからコーヒーを飲んだ。
「うまい……」
「でしょ?」
「なんか変なもの入ってないだろうな」
「ご心配なく。豆とお湯だけでできた純正のブラックコーヒーだよ」
「俺ブラック派じゃないが、これは好きだ」「気に入ってもらえたようで嬉しいよ」
 イラは真顔なので言葉だけが空々しい。
「話戻す? メランコリック・ララバイについてイラさんならもっと知ってるかもしれないよ」
「虚しいじゃないか。メーコは犯人知ってるんだろ」
 わたしは頷いた。
「期待されていたようだけれども、ワタシはメランコリック・ララバイについてはよく知らないよ」
 イラが気怠げに呟く。
「ワタシが知ってることはふたつ。1、メランコリック・ララバイは建物の屋上に出入りすると聴きやすくなる。2、聴いた者全員が認識できるとは限らず、認識した者は死を選ぶ。これくらいだね」
 わたしは有也を見た。
「ね? 知ってたでしょ」
「俺は目隠しされて歩いてる気分だぞ」
「目隠しの取れる出口には、ちゃんと連れて行くよ」
「じゃあ犯人教えろよ」
「わたしが犯人に殺されるよ」
 そこはさすがに問題だ。
「それは、まずいな」
「奴は計算高いから澤村ももちろん抹殺されるだろうね」
 しれっとイラが言う。
「で、これからキミはどうするんだい、澤村。メランコリック・ララバイを聴ける屋上がどこかワタシも特定していないよ」
「してないのかよ!」
「してたらワタシも死んでるかもしれないじゃないか」
 わたしが笑うと、
「メーコ。こんな奴でも友人か?」
「イラさんが友人と思ってなさそうだよ。わたし的には友達」
「ありがたいね。ワタシの友人2名」
「俺をカウントするな!」
 メーコと有也が帰った後、ワタシはドアに向かって言った。