奇会的光陰観測

奇会的観測、開始

 夏休みが幻のように思えてくる、秋めいた日。ワタシはいつも通り、ビルの屋上のプレハブ小屋で読書を楽しんでいた。読書の秋、である。暑かろうが寒かろうが読書ははかどると思うのだが、なぜ人は天高く馬肥ゆる秋に読書が良いと思ったのだろう。
 ページを繰ろうとしたら、ぴく、と右腕が不自然に動いた。今かの有名な『緋色の習作』を読んでいたのだが。
「このタイミングで未来記か……」
 避けようがないのだからしょうがない。むしろ学校でなかったことを幸運に思うべきだろう。
 本にしおりを挟み、ペンを執る。書かれた未来は。
 面妖、だった。
 ワタシは逃げなければならないらしい。あの零落が本気を出したらどうなるかくらいはワタシも知っている。
「零落って言うわりには、落ちぶれたかんじのしない人だったな」
 研究所の中で一番研究員らしいことをしているのが、零落かもしれない。零落はなんらかのよろしくないものを開発中だそうだ。それでワタシは逃げなければならないらしい。
 はっとして時計を見る。もう外は明るい。時刻もいつも起きる時間を過ぎている。が、学校に行けるはずなどない。どこに行こうか考えつつ荷物をまとめる。研究所は幸いなことに探査する手段をあまり持っていない。人探しは苦手なのである。スマホさえ持ち歩かなければ簡単には現在地を特定はされないだろう。
 だが。
「花姫が読めない」
 機械装置研究所の所長、破名坂姫芽。どう見ても今のワタシより数歳上にしか見えないのに、その外見はワタシが生まれた頃から変わっていない。
 彼女は機械なのだろうか。
 そして思考回路がおかしい。こちらの方が問題だ。
 荷物をまとめ、ワタシは紫条ビルに入った。